研究概要

研究の目的

やさしい文化財プロジェクトでは、文化財の中でも建造物、特に住居(民家)に焦点を当て、その説明文を、なるべく多くの人に理解できるような「やさしい日本語」と「やさしい英語」で書く方法を研究しています。

文化財の説明文は主に、建物内の表示パネル、印刷されたパンフレット、ウェブサイトなどで読むことができます。本研究ではそれらの実際の説明文を収集するところから始め、有形文化財である住居の紹介や説明によく使われる語句や文型を分析することで、やさしい文章の執筆方法を考案しようとしています。そして執筆や言い換えを半自動化できるようなツールも作ろうとしています。

ほかの「やさしい日本語」との違い

「やさしい日本語」はすでに、災害情報、地域情報、ニュースなど暮らしにおいて重要な情報を、主に日本に暮らす外国人向けにわかりやすく伝えるために使われています。また観光情報の提供や、観光で日本を訪れる外国人に対するおもてなしの言葉としても注目されています。しかし文化財の説明といった、文化的要素を含む情報を書き表すには不向きと考えられてきました。文化的要素を含む概念をやさしい言葉で短く言い表すのは難しいからです。

わたしたちの研究では、その難しさを、翻訳研究で得られてきた知見や、テクノロジーの力を借りて解決しようとしています。翻訳研究では、異文化の概念を伝達するためのさまざまな方法が提案されています。翻訳の目的に応じて、上位語に置き換える、説明的な訳語を使用する、などの方法があります。そのような、異言語間の翻訳で使われる方法を、普通の日本語から「やさしい日本語」への言語内翻訳に適用することで、異文化情報のやさしい化を実現できないだろうか、と考えています。また、言語の専門家でない人がなるべく簡単に「やさしい日本語」で執筆できるよう、語レベル、文レベル、文章レベルで執筆を支援するツールの開発も目指しています。

なぜ「やさしい英語」?

「やさしい日本語」は主に、日本に暮らす外国人向けに開発されてきました。日本でしばらく生活している人ならある程度の日本語が理解できるであろうという前提です。しかし観光で一時的に日本を訪れる外国人のほとんどは、日本語で書かれた情報を理解しないでしょう。また、日本語を理解しない人向けの情報発信には英語が広く使われますが、もちろん外国人観光客は全員英語が得意というわけではありません。しかし「やさしい英語」ならわかるという人は多いのではないでしょうか。

「やさしい日本語」で書いた文章なら、英語に翻訳するのも比較的簡単かもしれません。また、最近とみに性能が向上している自動翻訳システムを活用して、「やさしい日本語」から「やさしい英語」に、さらにやさしい多言語に翻訳できる可能性もあります。

なるべく多くの外国人観光客に日本の文化財に親しんでもらうため、また文化財を紹介しようとする人が少ない負担で世界の人に情報を発信する手段として、まずは「やさしい日本語」での執筆、そして「やさしい英語」への翻訳、という方法が有効なのではないかと考えています。

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